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札幌地方裁判所 平成8年(ワ)3003号 判決 1998年1月29日

原告

栗尾秀樹

外二名

原告

株式会社札幌いずみ産業

代表者代表取締役

青木勝

原告四名訴訟代理人弁護士

前田尚一

被告

塚本リゾート開発株式会社

共同代表者代表取締役

古谷一通

峯岸善助

訴訟代理人弁護士

高田照市

主文

一  被告は、原告栗尾秀樹に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成七年四月二二日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告株式会社札幌いずみ産業に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成六年一月一五日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告関谷眞理に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成八年一二月一三日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告青木由美子に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成八年一二月一三日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は、被告の負担とする。

六  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  請求

主文一ないし四項と同旨。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者)

被告は、預託金ゴルフ会員制事業を営む株式会社である。

2  (会員契約の締結)

(一)(1) 高木正(以下「高木」という。)は、昭和六三年一〇月一九日ころ、塚本産業株式会社(以下「塚本産業」という。)との間で、北海道千歳市蘭越二六所在の「ザ・ノースカントリーゴルフクラブ」(以下「本件ゴルフ場」という。)につき、以下の内容のゴルフ会員契約を締結した。

① 会員番号 第〇〇四〇号

② 保証金 四五〇万円

③ 返還据置期間 一五年

④ 入会金 五〇万円

(2) 原告栗尾秀樹は、平成五年四月二三日ころ、高木からゴルフ会員券を代金五五〇万円で譲り受け、高木のゴルフ会員契約上の地位を承継した。

(二) 原告株式会社札幌いずみ産業(当時の商号・有限会社札幌いずみ産業)は、昭和六三年一〇月一九日ころ、塚本産業との間で、以下の内容のゴルフ会員契約を締結した。

(1) 会員番号 第〇四二四号、第〇四二五号

(2) 保証金 合計九〇〇万円

(3) 返還据置期間 一五年

(4) 入会金 一〇〇万円

(三) 原告関谷眞理は、平成元年六月一〇日ころ、塚本産業との間で、以下の内容のゴルフ会員契約を締結した。

(1) 会員番号 第〇四八九号

(2) 保証金 九〇〇万円

(3) 返還据置期間 一五年

(4) 入会金 一〇〇万円

(四) 原告青木由美子は、平成元年六月一五日ころ、塚本産業との間で、以下の内容のゴルフ会員契約を締結した。

(1) 会員番号 第〇四九一号

(2) 保証金 九〇〇万円

(3) 返還据置期間 一五年

(4) 入会金 一〇〇万円

3  (会員契約の債務不履行)

(一) 塚本産業は、ゴルフ会員契約締結にあたり、会員及び会員の同伴した者のみに本件ゴルフ場を利用させ、会員は一切スタートの予約をすることなく、到着次第申込み順に本件ゴルフ場を利用することができる旨約した。

(二) しかしながら、塚本産業及び業務総代行である被告は、一方的に会員の同伴できる者の数の限定を緩めてしまったほか、会員以外の施設利用を積極的に認めるようになり、また、平成五年八月一日から予約制度を採用する旨を決定し、会員が予約なしに本件ゴルフ場施設を利用することをできなくしてしまった。

4  (営業譲渡)

(一) 被告は、塚本産業が事業主体であったときから、本件ゴルフ場の運営、管理を行っていたところ、平成五年九月三〇日ころ、塚本産業から営業の譲渡を受け、本件各会員契約上の地位を承継した。

(二) 仮に、被告が塚本産業との営業譲渡契約にもかかわらず、塚本産業の責任を直ちにそのまま引き継がないとしても、被告は、塚本産業の使用していた「ザ・ノースカントリーゴルフクラブ」の名称を譲受け後も使用していたのであるから、被告は商法二六条一項に基づき、責任を免れない。

5  (契約解除)

原告栗尾秀樹は、平成七年四月二一日、原告株式会社札幌いずみ産業は、平成六年一月一四日、その余の原告は、平成八年一二月一二日、それぞれ被告に対し、ゴルフ会員契約を解除する旨の意思表示をした。

6  よって、原告らは被告に対し、契約解除による原状回復請求権に基づき保証金及び預託金並びにこれらに対する契約解除の日の翌日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1は認める。

2  同2は認める。

3  同3は争う。ただし、塚本産業が、平成五年度から特別ゲスト枠を廃止したこと及び平成五年八月一日から予約制度を採用したことは認める。

4  同4(一)及び(二)は争う。

5  同5は認める。

6(一)  塚本産業が、平成五年度から特別ゲスト枠を廃止したのは、多くの会員から塚本産業に対し、本件ゴルフ場の特別ゲスト枠の制限が厳しく、家族、親しい友人、同僚等と一緒にプレーすることが困難であるとの苦情が出たため、「ザ・ノースカントリーゴルフクラブ」理事会に打診した上で行ったことである。

(二)  塚本産業は、平成二年七月に本件ゴルフ場をオープンさせたものであるが、会員の多くが土曜日、日曜日及び祝日にプレーをしたため、このような日に本件ゴルフ場を訪れた会員は、プレーができなかったり、プレーをする前に長時間待たされたりするという事態が生じた。

そのため、多くの会員から予めプレーの時間を決めておくことができるようにするようにとの希望が寄せられた。

これを受けて、前記理事会にも諮って検討をした結果、塚本産業は、会員が希望するスタート時間を事前に決めることのできる予約制をとった方がむしろ会員に効率よく本件ゴルフ場を利用する機会を与えることができると結論に達し、予約制を採用することにしたものである。

しかしながら、塚本産業は、予約制を採用したとはいえ、予約が可能な者は会員に限定し、また、予約していない者でも平日はもちろん休日でも余裕がある限りプレーを認めていた。

(三)  このような事実経過からすると、特別ゲスト枠の廃止及び予約制の導入は、債務不履行にはあたらない。

7  被告は、平成五年九月三〇日、塚本産業から本件ゴルフ場施設の譲渡を受けたものであり、被告は塚本産業の本件ゴルフ場の会員に対する全ての債権債務関係を承継したものではない。被告は、塚本産業の本件ゴルフ場施設に関する債務の返済を引き受けた上、会員に対し、年会費の支払を条件として本件ゴルフ場を利用させる債務及び預託金を所定の返還時期に返還する旨の債務を承継したにすぎない。

8  仮に、塚本産業が予約制度を採用したことがゴルフ会員契約の解除事由にあたるとしても、被告が塚本産業から本件ゴルフ場施設を譲り受けた当時、予約制度は一部導入されており、被告は予約制度を前提として、その限度で原告らに本件ゴルフ場の使用を認めたに過ぎないから、被告は、原告らに対し、予約制度の採用につき債務不履行責任を負わない。

第三  証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これらの各記載を引用する。

理由

一  請求原因1、2及び5の各事実は当事者間に争いがない。

二  同3(債務不履行)について

1  当事者間に争いのない事実に、証拠(甲一ないし九)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。

(一)  塚本産業は、会員とゴルフ会員契約を締結するにあたり、会員は、スタートの予約をする必要は一切なく、会員は申込み順にプレーをすることができること、会員の同伴ゲストについては、土曜日、日曜日及び祝日は会員一名につき一名、平日は会員一名につき三名とすることを約した。

(二)  塚本産業は、ゴルフ会員権販売にあたっても、右特別ゲスト枠の制限と予約不要のプレーシステムを、他のゴルフ場と比べた本件ゴルフ場の特長として積極的に宣伝していた。

(三)  しかしながら、塚本産業は、平成五年度から特別ゲスト枠を廃止することとした。

(四)  そして、塚本産業は、平成五年八月一日から予約制度を採用した。この結果、会員もプレーをするためには、事前に予約をする必要が生じたが、予約をしていない者であっても本件ゴルフ場に余裕がある場合、プレーをすることも可能であった。

2 右各認定事実によれば、特別ゲスト枠の廃止と予約制度の導入は、原告らの承諾を得ることなく、本件ゴルフ場のプレーの仕組みを基本的に変更したものであって、債務不履行にあたるといわざるを得ない。

被告は、塚本産業が、特別ゲスト枠を廃止し、予約制度を導入したのは、会員からの要望に基づき、「ザ・ノースカントリーゴルフクラブ」理事会に打診した上で行ったことであって、債務不履行にあたらないと主張する。

しかしながら、具体的に会員のどれだけの者がいつ塚本産業に要望したかは明らかにされていないし、理事会の承認を得ていたことを認めるに足りる証拠はなく、被告の主張は採用できない。

また、被告は、予約制を採用したとはいえ、予約が可能な者は会員に限定し、また、予約していない者でも平日はもちろん休日も余裕がある限りプレーができたと主張するが、問題とされるべきはプレーの基本的な仕組み事態を契約当事者である会員の承諾を得ずに変更したことであって、予約制導入後も無予約の者が予約の間隙を縫ってプレーが可能なことの一事をもって債務不履行責任を免れるものではない。被告の主張は採用できない。

三  同4(営業譲渡)について

証拠(乙三)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成五年九月三〇日ころ、塚本産業から本件ゴルフ場の営業権につき譲渡を受けた事実が認められ、したがって、被告は原告らとのゴルフ会員契約上の地位を承継したというべきである。

被告は、塚本産業から、年会費の支払を条件として本件ゴルフ場を利用させる債務及び預託金を所定の返還時期に返還する旨の債務を承継したにすぎないと主張するが、被告は前示のように営業譲渡を受けたものであり、被告の主張は採用できない。被告主張のような契約債務の一部のみの移転は、契約の相手方である原告らの承諾なしにしえないことである。

その他の被告の主張もいずれも採用することができない。

四  結論

よって、原告の請求は、理由がある。

(裁判官田代雅彦)

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